「第10回全国展」(高知県伊野町)出品の290点をまとめた本書。出品作の選定は主催者三者で基本方針を決め、米子の事務局が担当した。今回の作品は、鹿児島展以降、本部の責任で全国各地のサークル展をほとんど漏れなく見せてもらい、いろいろの条件を勘案しながら選定した。
その方針は、
(1)できるだけ多くの新人(過去の全国展に未出品の方)作品を推薦する
(2)これまでの全国展出品経験者には、今回・次回・次々回と振り分けて出品してもらうということで毎回の出品作レベルを高度に持続維持できるものと確信する。
今回の全国展と本書を一覧しての感想
(1)編集者の意図はほぼ達成された
(2)出品作品の水準がそろって高いこと
このことは以前の全国展出品の経験有り無しとは関係しない。初出品の方には、これまでの努力の成果としておよろこび申し上げる。そして今後の更なるご精進と研鑽に期待する。
ところで昨今、私の考えているちぎり絵をめぐる諸問題、今後の動向“ちぎり絵活動いかにあるべきか”について少し述べてみたい。
(1)ちぎり絵に限らず、絵画・工芸、さらに造形芸術一般にいえることは、制作に当たって大事なもの--作者の内部で描こう(表現しよう)という意欲をかきたてる心の高揚、燃焼である。美を感じ、美を創造する それにはまず制作者の心が燃えること。燃え方もいろいろある。突如として燃え上がることもあれば、静かに持続的に燃えつづけることもあろう。私の場合、「ばら」や「尾瀬」や「大山」など描くときは、静かなる焔の持続だ。しかし「ヒロシマ」や「南京」の制作時は、激しい怒りが込み上げ、とめどなく涙が流れた。文字どおり泣きながら描いた。文学作品の作家にはきっとそういう経験があるに違いない。強いにせよ弱いにせよ、作者の感動は必ず見る人に伝わるはず。(もちろん私の制作の場合、ふつうは鼻歌でやっています。 念のため)
(2)次に申しあげたいこと、花でも風景でも、描き始める前の構図・構成の段階で、どういう雰囲気の絵にするかを想定すること。明るいのびのびした絵にするか、沈静の、落ちつきのある絵にするかなど この決定条件で大切なのは色調だ。油絵・日本画と同様、和紙画でも多様多彩な色の組み合わせが自由に選べるので、例えば花を描く場合、バックとそれに乗せるモチーフとの色の組み合わせを総合的に考え、自分なりの色調を創出することが大事である。最近は染色職人さんの努力と工夫で、ずいぶん多彩な色調の紙が作られている。単純に空は青、花や葉の色は何と固定観念で決め付けないこと。
(3)教室で入手できる多彩な紙、いつも注意して、気に入りのものを即時入手保存しておくこと、染色の職人さんたちも各地の展覧会を参観して、自作の紙がどう使われているか、皆さんがどんな色の紙を求めているかを研究しておられる。紙漉き、染色の職人さんたちと、紙の性質、色調などについて、機会があれば、一緒に話し合いの時を持ちたいと考える。この意見交換の中から、新しい和紙が生まれることになればと思う。これが継続的に実施されれば、素敵な紙が次々と開発され、和紙の製作者、ちぎり絵の作者にとっても無限の世界が開けてくることになる。
(4)和紙による創作への触発
私の作品「怨霊(南京)」「アウシュビッツ」は心の奥深くひそんでいた心象が、バックの紙との出会いで、一気に噴出したもの。浜田幸雄さんが、失敗作だと思っていた染紙だった。これらの紙を浜田さんから譲り受け保存していたが、あるとき何気なく引き出して、この紙と邂逅、この二作品を数日で仕上げた。染和紙の持つ無限の可能性を示す一例である。皆さんもできる限りいろいろな染紙を準備してほしい。
(5)「がんぴ舎掲示板」2000年10月号に「ちぎり絵活動の現在」という記事があった。その中で、私たちの全国各地サークルの活動状況を要約している。6項目の中で特に、2.老人保健施設、3.福祉施設でのちぎり絵活動の展開は貴重である。これはわれわれ独自の活動である。他の公民館、婦人会、カルチャー教室、自主サークルなどの活動に劣らぬ大切な動きとして全サークルあげて努力して下さることを願う。
2001年4月吉日
全国和紙ちぎり絵サークル
主 宰 亀井健三
|